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未来の可能性を広く取れ

Photo : StreetVJ / Shutterstock

Posted by local knowledge on October 25th, 2024

2022年に亡くなったエリザベス二世の高祖母(祖父母の祖母)にあたるのがヴィクトリア女王( Victoria:1819 – 1901))で、彼女が大英帝国を統治していた時代をヴィクトリア朝(Victorian Era)と言います(余談ですが、ナイチンゲール:Florence Nightingale もこのヴィクトリア女王とほぼ同時代の人ですね)。ご存知の方も多いかと思いますが、18世紀後半の産業革命で蒔いた種がこのヴィクトリア朝で一気に開花しました。この時代の大英帝国は(終盤には、ドイツや米国が勢力を拡大してきますが)一言で言えば「怖いものなし」です。世界各地を矢継ぎ早に植民地化し、産業革命が具体的な工業化という形で急伸し、地下鉄を含む鉄道網が発達し、白熱電灯が一般化し、電信(telegraph)での情報発信が急増し、世界初の万国博覧会(ロンドン万国博覧会)が開催(1851年)、という具合で、まさに、向かうところ敵なし、でした。

しかし一方でこの時代は「貧富の格差が明確になった暗黒の時代」でもあります。都市労働者の労働/生活条件が悪化し、貧民層のスラム化が進行し、加えて(いわゆる)公害問題がすでに様々なところで生じていました。市場拡大を前提とする資本主義のダメなところが一気に露呈したわけです。(いわゆる)アベノミクスが失業率を下げたのは確かですが、中間層が疲弊し、貧富の差が明確になり、雇用の質も同時に下がってしまったところに大きな問題を孕んでいたと(個人的には)思うのですが、なんとなくそれを彷彿とさせるところがこのヴィクトリア朝にはあったようです。

このような時代を改革すべく一石を投じた批評家としてはトーマス・カーライル(Thomas Carlyle、1795-1881)やジョン・ラスキン(John Ruskin、1819 – 1900)がよく知られていますが、具体的な政治活動に積極的に関わり自ら動いた、という意味では、アーツ・アンド・クラフツ運動(Arts and Crafts Movement)の創始者、ウイリアム・モリス(William Morris、1834- 1896)を無視するわけには行きません。手仕事の重視、そして生活と芸術の一致を目指したモリスの運動は国内外の至るところへ波及していきました。柳宗悦(1889 – 1961)の民藝運動もモリスの活動に多少なりとも影響を受けている可能性があると思います。いずれにしてもモリスの活動は一言で言えば「労働の意味をアート視点から問い直している」ことにある、と考えられます。アート視点から労働を見直した時に見えてくるのは古典的な高度成長期の価値観に囚われない自由な未来、である可能性が高い。里山の廃屋を友人たちと一緒に作りかえ商売を始めてしまう逞しい若者が増えている、という話をよく聞きますが、これはまさにアーツ・アンド・クラフツ運動そのものですね。

来る11月23日(土曜日)に開催される「物質知性と共に育むサスティナビリティ価値創造」のセッション1にはアーティストの長谷川愛さんが登場しますが、実はセッション1のテーマ「未来の可能性を広く取れ」は事前打ち合わせの時に彼女から出てきたセリフそのままです。彼女にはその辺りを詳しく語っていただこうと考えています。ぜひご参加ください(無料です)。
https://www.localknowledge.jp/2024/10/1659/

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