未来のメディアの作り方(第4回)

レクチャーシリーズ:未来のメディアの作り方(第4回)
勝ち組のメディアと負け組のメディア
—100万部雑誌『キング』が成し遂げた公共性と野依秀市の世論(せろん)を比較する

佐藤卓己(上智大学文学部新聞学科教授/京都大学名誉教授)

Posted by local knowledge on November 18th, 2024

『負け組のメディア史』 は、明治後半から昭和にかけて数々の雑誌・日刊紙を刊行した出版人・野依秀市(のより・ひでいち:1885-1968)の評伝ですが、今日、彼の名を知る人はほとんどいないでしょう。野依は、経営・発行する雑誌・新聞で自ら「野依式」を強烈にアピールして論陣を張り続け、生涯に200冊以上の「自著」を刊行しましたが、言論人というよりは、自らを広告媒体と意識した上で売り込んでいく、一種のブラックジャーナリズムでした。但しメジャーな総合雑誌や一流の全国紙が伝えているものとはあきらかに異なる世論(せろん)を代弁していたのも事実です。

一方、日本初の100万部を達成し雑誌の黄金時代を築いた伝説的雑誌『キング』を「参加型、娯楽重視のラジオ的雑誌」という視点で捉え直すことで、それが実現した公共性を解明したのが、『『キング』の時代』です。『キング』は大正13年(1924)に大日本雄弁会講談社(現在の講談社)野間清治(のま・せいじ、1878- 1938)によって創刊されました。同時代の『中央公論』などに比べ、知識人からは低く見られていた雑誌ですが、この時代に発見されていくことになる「大衆」の熱烈な支持を得て、100万部を超える支持を獲得できたわけです。ただし、『キング』はテレビが本格的に普及し始めた昭和32年(1957)に廃刊になります。

今回、勝ち組としての『キング』と負け組としての野依秀市を対比的に取り上げますが、ソーシャルメディアがその全盛時代を迎えつつある現代のメディア環境と照らし合わせてみても、果たして『キング』は本当に「勝ち組」だったのか、そして野依秀市が本当に「負け組」なのかは案外微妙です。去る17日に投開票が行われた兵庫県知事選が「伝統的メディアの報道とSNSにおける情報拡散の戦い」のごとく捉えられたことと共通する「何か」がありそうな予感もします。

『キング』や野依秀市が作った公共言論空間を改めて学び直し、現在の公共言論空間を分析し、そして近未来の公共言論空間のあり方を考える講義としたいと思います。

開催概要

イベント名称未来のメディアの作り方(第4回)
勝ち組のメディアと負け組のメディア—100万部雑誌『キング』が成し遂げた公共性と野依秀市の世論(せろん)を比較する
開催日時2024年12月6日(金) 17:00~18:30
※お申込みいただいたみなさま全員に見逃し配信を行います。イベント終了後一両日中にはアーカイブ動画配信を開始し、約1週間のあいだご視聴いただけます。
話題提供者佐藤卓己(さとう・たくみ)
上智大学文学部新聞学科教授/京都大学名誉教授(専攻:メディア史)
参考図書
負け組のメディア史(天下無敵 野依秀市伝)
負け組のメディア史(天下無敵 野依秀市伝)
(岩波現代文庫、2021)
『キング』の時代
『キング』の時代
(岩波現代文庫、2020)
イベント形態Zoomミーティングを利用したオンラインイベントです。
※お申込みいただいた方および「ローカルナレッジ」月額サブスクリプションメンバーの方には、参加URLを事前にメールにてお送りします。
参加料1,000円(税込)
※月額サブスクリプションメンバーは不要
参加方法このウェビナー(Webinar)のみ申し込む
または月額500円(税込)のサブスクリプション サブスクリプションに登録する
※サブスクリプションメンバーは月額500円のお支払いだけで、毎月複数回実施される「ローカルナレッジ」が開催する全ての有料セミナーに参加可能です。
購入期限チケットの購入期限は当日12月6日の16時までとさせていただきます。
主催ローカルナレッジ編集部(スタイル株式会社)
※プログラムの内容・時間などは予告なく変更となる可能性があります。ご了承ください。

佐藤卓己氏(上智大学教授/京都大学名誉教授)による「レクチャーシリーズ:未来のメディアの作り方」は、近い将来私たちが構築すべき言論空間、そしてその言論空間を展開するに相応しい形式や運用のあり方を探るために、彼の膨大な著作の中から重要度の高いものを副読本として毎回1冊取り上げ、来年(2025年)3月まで月1回のペースで合計7回の講義を実施します。

あいまいさに耐える/ネガティブ・リテラシーのすすめ
第1回(8月26日実施、終了)
あいまいさに耐える/ネガティブ・リテラシーのすすめ(岩波新書、2024)
増補 八月十五日の神話 ─終戦記念日のメディア学
増補 八月十五日の神話 ─終戦記念日のメディア学(岩波新書、2014)
言論統制(中央公論新社、2024)
第2回(9月30日実施、終了)
言論統制(中央公論新社、2024)
輿論(よろん)と世論(せろん)(新潮社、2008)
第3回(10月28日実施、終了)
輿論(よろん)と世論(せろん)(新潮社、2008)
負け組のメディア史(天下無敵 野依秀市伝)(岩波現代文庫、2021)
第4回
負け組のメディア史(天下無敵 野依秀市伝)(岩波現代文庫、2021)
『キング』の時代(岩波現代文庫、2020)
『キング』の時代(岩波現代文庫、2020)
テレビ的教養(一億総博知化への系譜)(岩波現代文庫、2019)
第5回 2025年1月24日17時から
テレビ的教養(一億総博知化への系譜)(岩波現代文庫、2019)
流言のメディア史(岩波新書、2019)
第6回 2025年2月21日17時から
流言のメディア史(岩波新書、2019)
メディア論の名著30 (ちくま新書、2020)
第7回 2025年3月21日17時から
メディア論の名著30 (ちくま新書、2020)
佐藤卓己(さとう・たくみ)
佐藤卓己(さとう・たくみ)

1960年広島県生まれ。京都大学文学部史学科を経て1986年同大学院修士課程修了。ミュンヘン大学近代史研究所留学後、1989年京都大学大学院博士課程単位取得退学。東京大学新聞研究所助手、同志社大学文学部助教授、国際日本文化研究センター助教授、京都大学大学院教育学研究科教授を歴任。2024年3月に京都大学を早期退職し、同年4月に上智大学文学部新聞学科教授に就任(現任)。