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雑誌と地域と公共言論空間を考える

Photo : 当麻町 朝焼け雲が映る田んぼの風景 / TATSUYA UEDA / Adobe Stock

Posted by local knowledge on December 2nd, 2024

『近世百姓の底力―村からみた江戸時代』(渡辺尚志著、敬文舎、2013)で確か「百姓」が定義されていたはず、と思い出し、なぜこのような本を私が持っているのかはともかく、これを参照しつつ、簡略化して引用すると「江戸時代における「百姓」とは「村人」と同義語。「村」は百姓たちが生活と生産を営む場であると同時に領主が百姓を把握するための支配・行政の単位。天保5年(1834年)時点で全国に63,562存在した。仮に現在の市町村数を1,700とすると、単位市町村あたり37程度の村が含まれていたことになる。この頃の平均的な村の「石高」は400~500石、耕地面積は50町(約99㎡)、人口は400人程度。村の主要産業は農業だが、林業・漁業・商工業が中心だった村も珍しくないので、必ずしも百姓=農民とは考えられない上に、運送業・日雇い・治安維持・道の管理・防火・防災などを“兼業”するのが普通だったので、色々な仕事をこなす人=百姓になった、と思われる。また、僧侶・神職をも百姓に含めていた地域も多い。百姓は本百姓(高持)と水呑(無高)などの区分があり、水呑は百姓とは認めない村もあった」ということのようです。「百姓」とは肯定的な意味で現代風にパラフレーズすれば「マルチプレイヤー」であり、否定的に表現したいなら「器用貧乏」ということになるのかもしれません。

これが大きく変わったのが皆さんご存知の戦後の「農地改革(第二次農地改革法、1946年)」で、ここで一気に「専業農家」が誕生しますが、生産性の向上よりは政治的安定が優先されたため、小規模経営が大半の農業は、次第に建業農家を増やすことになり(途中、議論を大幅に省略しますが)、これが日本の食料自給率の低さにつながっていきます。政府は盛んに「AIやIoTを駆使した大規模経営」を奨励し、またそのための補助金などを用意していますが、政治的都合だけで生産調整させられるような仕事を大規模に展開しても構わないと考えるチャレンジャーがそんなに増えるとも思えませんし、また食糧の生産が博打であってはならないとも思うのです。

一方、バブル崩壊とともに「大家族経営」が行き詰まった大企業を中心に「(いわゆる)副業禁止規定」の廃止がトレンドとして登場してきました。「働き方の多様化」「ひとりの人間の中にある多様な個性を活かす」「自己実現への近道」などの美辞麗句に彩られた柔軟な制度ということになっていますが、これも皆さんお気付きのように「もうあんたの面倒を一生見ることはできないから、いつ辞めてもいいですよ」というのが本音です。つまり単なる終身雇用制度の破綻にすぎないのですが、これを百姓の勧め、と捉えることも可能です。さらに拍車をかけたのが2020年頃のコロナ禍をきっかけに登場した「リモートワーク/テレワーク」です。要するに(デスクワーク中心の業務に限られるかとは思いますが)副業がやりやすくなったわけです。結果論ではありますが経営者と労働者の利害が一致するのは悪いことではありません。

ちゃんとしたデータがなくて申し訳ないのですが、これをきっかけに(副業の一つとして)農業にこっそり参入してもいいかな、と考える若い人が出始めているような気がします。私の知り合いでも、いずれか一方が農業に従事している夫婦が3組存在します。家族としてはみんなが「百姓」になろうとしているように見えるのですね。規模を追わずに品質の高い農作物を自分の周辺だけに販売する、という方法は案外儲かります。

従来の専業農家あるいは兼業農家とはちょっと違った粋な百姓を増やすのは案外日本ならではの施策になっていく可能性がありますね。規模を追わないという前提であれば大型の農業機械は不要なので、スマホ+クラウド+センサーという極めて少額の設備投資で済むITは意外と相性がいい。インターネットというインフラは小規模なマーケティングに有効でもあります。F社とかN社が高額な見積もりを出してきた場合はご一報ください。その金額の妥当性を私が判断して差し上げます。

さて、元『地域人』編集長、現在は大正大学出版会編集長の渡邊直樹さんによる新シリーズ「地域人による地域創生」シリーズ第2回は、『生きるための農業/地域をつくる農業』の著者・菅野芳秀さんと渡邊直樹さんの対談になります。菅野さんは「置賜(おきたま)自給圏推進機構」を立ち上げた「百姓」ですが、本書のあとがきで「稲作農家の時給がたった10円。農家の誰もが逃げ出さざるを得ない状態。食糧生産地の崩壊。それがそのまま自分たちのいのちの危機につながっているというのに、あいも変わらずグルメだ、大食いだ、と大騒ぎしているこの国の国民の幼稚さ。世も末だと思う」という苦言と同時に「いま、若い人たちの中には、農に近づき、土を耕すことを暮らしの一部にしようとする人が増えていると聞く。(中略)育てたものを口に運ぶとき、そこには何物にも代えがたい農の世界の喜びがある」とまとめられています。「辛いけどもそれを上回る喜び」ってどんなものなのかもお聞きしたいですね。農業に関心のある若い方、農政に携わる頭の硬い行政の方、そして山形県の方に集まっていただきたいトークイベントになると思います。

新シリーズ立ち上げを記念して無料で実施します。ぜひご参加ください。
https://www.localknowledge.jp/2024/12/1807/

菅野芳秀さん(左)と渡邊直樹さん(右)

菅野芳秀さん(左)と渡邊直樹さん(右)

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