Local Knowledge / Fall 2023

Local Knowledge/Fall 2023 を実施します

オーストリアの哲学者イヴァン・イリイチ(Ivan Illich)といえば、バナキュラー(vernacular)、サブシステンス (subsistence) 、シャドウワーク(shadow work)などの言葉が有名ですが、もう一つ「脱学校」すなわち学校という制度の撤廃を提言していました。名著『脱学校の社会』(1997年、東京創元社)の中で「脱学校とは、特定の人が他の人に対してある集会への出席を義務づけることができるような権限を廃止することである。それはまた、年齢、性別にかかわりなく、すべての人が会合を開く権利をもつことを認めることでもある。今日ではこの権利は、会合が制度化されたことによってかえって大幅に制約されてしまった。会合は、元来、個人個人が勝手に主宰できる。それは何らかの機関によって制度的につくり出されたものであってはならない。すべての人に教育を与えるというのはすべての人による教育をも意味する。脱学校化された社会(deschooled society)は、偶発的な教育あるいは非形式的な教育への新しいアプローチなのだ」と指摘しています。今回ご出演いただく話題提供者のお一人、ゴリラの研究者として著名な山極壽一氏(総合地球環境学研究所・所長)も「生活を豊かにするために必要な自由は、集まり、移動し、対話することで成り立つ。この自由は人間だけが持つものだ。この自由が保障されなければ人間ではない」とまでおっしゃいます。

今回のLocal Knowledge Fall 2023は、12月以降定期的に開催されるローカルナレッジ・ミーティングを引っ張っていくリーダーのお披露目を兼ねています。長時間のセミナーですが、全て聴講いただく必要はありません。気になるセッションだけご参加いただくだけでも良いと思います。凄い人達に集結していただきましたが、セミナー自体はカジュアルに進めます。それぞれのプログラムの開始時刻も微妙にずれるはずですが、そのあたりはご了承ください。また各セッションでは様々な書籍が紹介されていくはずですが、それがどのようなものなのかは主催者も知りません。ささやかながら皆さんにとって有益な「読書の秋」がご提供できればいいな、と考えています。

Programプログラム

10:00〜10:45

人間って何?

一日かけても終わらなそうなテーマをたった30分で実施してしまおうという無謀な企画ですが、LocalKnowledge / Fall 2023はこの事実上のキーノートセッションからスタートします。科学哲学の村上さん、霊長類学の山極さん、哲学の野家さんの3人が語ります。

参考書籍

共感革命: 社交する人類の進化と未来 山極氏 推薦
時間と自我 野家氏 推薦
時間と存在 野家氏 推薦
10:45〜12:00

【危機を生きぬく知】から人類史を見る,人類史から【危機を生きぬく道】を探る

書籍『レジリエンス人類史』を参考文献として、“弱さ”を“強み”に変えたヒトの歴史から学び,「危機を生きぬく知」の視座から,単なる持続可能性や復元力でなく危機の時代を乗り越えるために自ら変容していくことの大事さを,「新しい共感力」「うまくぶつかる知恵」「食の変革」を中心に議論します。

参考書籍

レジリエンス人類史 (地球研学術叢書) 全員 推薦
Anthro Vision(アンソロ・ビジョン) 人類学的思考で視るビジネスと世界 全員 推薦
道徳性の起源: ボノボが教えてくれること 山極氏 推薦
メキシコ古代都市の謎 テオティワカンを掘る 稲村氏 推薦
人体600万年史(上):科学が明かす進化・健康・疾病 木村氏 推薦
人体600万年史(下):科学が明かす進化・健康・疾病 木村氏 推薦
13:00〜14:00

音楽、地の塩となりて(第一回)

クラシック、邦楽、純粋娯楽のための音楽、伝統音楽、宗教音楽など、世界に音楽は限りなく広がっています。このセッションでは出来るだけオープンな姿勢で、地球上に豊かに広がる音楽の様態を探っていきます。第一回のゲストは『ミュージックスとの付き合い方:民族音楽学の拡がり』(左右社、2016,民族藝術学会木村重信賞)『ものがたり日本音楽史』(岩波書店)などの著作で高明な徳丸吉彦さん(お茶の水女子大学名誉教授)をお招きします。

参考書籍

音楽 地の塩となりて: 人生の嗜み、そして教養として 村上氏 推薦
ものがたり日本音楽史 (岩波ジュニア新書) 徳丸氏 推薦
14:00〜15:00

鳥取県江府町「奥大山自然塾」のためにローカルナレッジ「山極塾」ができること

大山の南麓に位置する人口約2,500人の鳥取県江府町は、美味しい水、豊かな自然環境に恵まれ、2023年5月の「奥大山自然塾」開校をはじめ未来を見据えたさまざまなまちづくり施策を展開されています。一方、山極壽一・阿部健一両先生のチームは、地球環境問題を軸に日本各地で次世代育成支援に力を入れてこられました。本セッションでは、江府町の魅力的な取組みに対してこれから「山極塾」が具体的にどのように貢献できそうか、そのとき本や図書館がどんな役割を果たせるのか、当事者同士が話し合います。

参考書籍

小さな会社のブランド戦略 白石氏 推薦
オランウータンに会いたい 光島氏 推薦
世界最悪の旅―スコット南極探検隊 (中公文庫BIBLIO) 山田氏 推薦
15:00〜16:00

世界を変えるアートとアンソロ・ビジョン(人類学/人文学)の可能性

ヒトが“弱さ”を“強み”に変えて繁栄した基礎に「共感力」がありました。しかし今,「集団内の共感力」がむしろ,争いと環境悪化の要因になっています。仲間同士を越えた「新しい共感力」はどうすれば創造できるのか。「ことば」の限界を超え,五感に訴える共通の精神価値をつくる上でアートが果たすであろう役割をじっくり議論します。

参考書籍

地球に降り立つ: 新気候体制を生き抜くための政治 阿部氏 推薦
万物の黎明 人類史を根本からくつがえす 稲村氏 推薦
草の根グローバリゼーション―世界遺産棚田村の文化実践と生活戦略 清水氏 推薦
実践 日々のアナキズム――世界に抗う土着の秩序の作り方 清水氏 推薦
自前の思想: 時代と社会に応答するフィールドワーク 清水氏 推薦
植物の生の哲学: 混合の形而上学 長谷川氏 推薦
自然なきエコロジー 来たるべき環境哲学に向けて 長谷川氏 推薦
新しいエコロジーとアート 「まごつき期」としての人新世 長谷川氏 推薦
16:00〜18:00

破綻したチューリングマシン・物質と精神-自然知能の可能性

「人間の本質が理性や意志にあるのではなく、構想力にある」と喝破したのは哲学者の三木清(1897 – 1945)ですが、その構想力なるものは感性と知性の根底にある能力であり、目の前にある現実を超えて将来の新しいイメージを構想する力です。記号接地問題とフレーム問題をいまだに解決できない人工知能(artificial intelligence)にこの構想力なるものは存在しません。知性は量子、そして量子から構成される物質、そして物質から構成される生命が育みます。精神と自然知能の可能性を探ります。

参考書籍

イグノランス: 無知こそ科学の原動力 中山氏 推薦
生命とは何か: 物理的にみた生細胞 原氏 推薦
亜種の起源 苦しみは波のように 桜田氏 推薦
18:00〜19:00

「農業社会・国家農学」の思考から「アフリカ型自然社会の農と食」へ

私たちが暮らす現代産業社会の源流は,古代の食料生産革命から生まれた「アグラリアン社会」(農業社会)にありますが、これに由来するシステムと思考が,豊かな森林を破壊し地球規模の環境危機を引き起こしています。そこで、食料生産革命を経験しない「自然社会」として多様で豊かな農と食を育んできたアフリカに学ぼうとするのがこのセッションです。『アフリカから農を問い直す』を参考図書とします。

参考書籍

食の文明論: ホモ・サピエンス史から探る 杉村氏 推薦
大転換―市場社会の形成と崩壊 鶴田氏 推薦
文明の生態史観 末原氏 推薦
星の王子さま 池上氏 推薦
モモ 池上氏 推薦
「共食」の社会史 池上氏 推薦
サバンナの林を豊かに生きる: 母系社会の人類学 杉山氏 推薦
アフリカ諸地域 ~20世紀 杉山氏 推薦
ゾミア―― 脱国家の世界史 小松氏 推薦
縁食論――孤食と共食のあいだ 小松氏 推薦
バナナの足、世界を駆ける: 農と食の人類学 小松氏 推薦

Overview開催概要

イベント名称
Local Knowledge / Fall 2023
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開催日時
2023年11月25日(土曜)10:00〜19:00(予定)
開催方法
Zoom Webinarsを利用したオンライン開催です。お申込みいただいた方に参加用URLをメールにてお送りします。
参加登録はこちら
参加費
無料
主催
ローカルナレッジ編集委員会(スタイル株式会社 本棚演算株式会社
協力
一般社団法人・京都大学学術出版会
お問い合わせ
ローカルナレッジ編集部(スタイル株式会社)