2024/4/26(金)15:10~16:40
生活基盤を完全に失わせた大噴火災害からの創造的復興:アエタ族の生存戦略
『アエタ 灰のなかの未来:大噴火と創造的復興の写真民族誌』を中心に
Posted by local knowledge on April 8th, 2024
自然災害の中で、最も甚大な災害となるのは、大規模噴火災害です。たとえばVEI(火山噴火指数)7以上の大規模噴火が九州で起こった場合、九州は完全に壊滅し、さらに北海道の南半分は15㎝以上の火山灰に覆われ、エネルギー、通信、交通は遮断され、農業生産は壊滅的な影響を受けると言われます。そしてその規模の噴火は、世界的に見れば、歴史が記録された時代に限っても何度も繰り返されています。
20世紀において世界最大の噴火(VEI 6)を起こしたのは、1991年のフィリピンルソン島のピナトゥボ山でした。この山麓で伝統的な暮らしを送っていたのが、アジア系ネグリート(一般に小柄で黒い肌を特徴とする民族集団)の一つ、アエタ族でした。数百㎞離れた島々にも降灰被害をもたらした大噴火は、移動焼畑農耕と狩猟採集を組み合わせていたアエタの人びとの生活基盤を完全に破壊したのです。
文化人類学者として1970年代からこのアエタ族を長期の研究対象にしていた清水展氏は、まさにフィリピンに滞在中この大噴火に直面し、アエタへの緊急救援と復興支援をするNGOの現地ワーカーとなり、日本に帰国した後も大学の休暇のたびに現地に戻ってボランティア活動を行ってきました。
当初、全ての生活基盤を失い非常な困窮と生存の危機に直面したアエタでしたが、その後の彼らは、強靱な復興力を発揮します。その秘密の一つは、彼らの生業にありました。西欧世界に支配されたフィリピンの平地民のように一つの生業・資源に特化せず、多くの生業や資源利用を組み合わせる生存戦略(重層的併存)が、環境や社会の大変動に対して有効に働いたのです。もう一つの秘密は、外部世界に飲み込まれず、その圧力をうまく交わしながらも利用する柔軟な社会戦略です。世界中から寄せられた様々な支援の中で、アエタは、自らの民族的な価値を自覚し、それまで強く差別されていた存在から、フィリピンという国家における先住民として、社会的位置を高めたのです。その様を、清水さんは「新しい人間になった」ともいえる創造的な復興と呼んでいます。
『アエタ 灰のなかの未来』は、そのサブタイトルにあるように、アエタの創造的復興を数百枚のカラー写真とともに報告、考察した写真民族誌です。いたずらに理論化した人類学を語るのではなく、地域に巻き込まれ、人びとを巻き込んで地域に強くコミットする「応答の人類学」の提唱者・実践者として日本学士院賞という最高の学術的栄誉に輝いた(ちなみに、文化人類学者としてはじめての学士院賞受賞者)清水さんご本人から、完全に生活基盤を失った人びとがなぜ復興できたのか,その様を学ぶことで、いままさに各種の自然災害に苦悩する日本が何を学べるのか、考えます。
本イベントが取り上げる本
開催概要
イベント名称 | 生活基盤を完全に失わせた大噴火災害からの創造的復興:アエタ族の生存戦略 『アエタ 灰のなかの未来:大噴火と創造的復興の写真民族誌』を中心に ※本イベントは「Local Knowledge MeetUp Spring 2024 いま考える『地域主権』と『新しい復興』」のSession 3として開催いたします。 |
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開催日時 | 2024/4/26(金)15:10~16:40 ※本イベントは見逃し配信を行いません。 |
話題提供者 | 清水展さん(文化人類学・東南アジア研究、京都大学名誉教授) 森華さん(ブックデザイナー/イラストレーター) 鈴木哲也さん(京都大学学術出版会専務理事・編集長) |
イベント形態 | Zoom Webinarsを利用したオンライン開催です。 ※お申込みいただいた方に参加用URLをメールにてお送りします。 |
参加料 | 無料 |
参加方法 | 参加登録はこちら |
主催 | ローカルナレッジ編集委員会(スタイル株式会社、本棚演算株式会社) |
協力 | 一般社団法人・京都大学学術出版会 |
後援 | 京都大学 東南アジア地域研究研究所 |