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なぜみんな「やっぱり写真はプリントだよな」と言うのか

After all, Photographs are best when printed

Photo : 岩手県西和賀町 新緑の錦秋湖 / yspbqh14 / Adobe Stock

Posted by local knowledge on April 24th, 2025

私たちは普段の自分の日常生活や視野に入ってくる社会現象を「動画」として認識しています。例えばテーブルに置かれた(自ら動くはずのない)静物としてのリンゴをじーっと凝視している場合でさえ、微妙な視覚的揺らぎ・空気感・時間の経過、などを動画的に感じ取ってしまうはずです。これは同時に、私たちが「瞬間」を正確に認識する能力に欠けていることをも指します。そこで「カメラ」が登場します。写真は私たちが認知できない「瞬間」を捉え、画像として定着させます。そしてそこでは動画的に認識していた現実とは微妙に異なる風景が展開されていることが確認できると同時に、ある種の心地よさを感じるはずです。時間が動かない安心感に加え、カメラが捉えた瞬間の前後の時間帯を勝手に妄想する権利が自動的に付与されるからでしょう。

動画で再現される過去が「否定し難い事実」を突きつけてくるのに比べると、写真の場合は、撮影された瞬間の前後を含む時間帯を、「多分こうだったはず」と、自らに都合のいい記憶だけを抽出しつつ、勝手に妄想することが可能です。動画は基本的に瞬間(静止画)をシームレスに繋げることで生成されるので、静止画は動画の一部と誤解しやすいのですが、「時間帯」を主役にすると、全く異なるメディアになっていることがわかると同時に、むしろ静止画(写真)には、無限にその妄想の時間枠を拡大する権利が与えられていることに気づかされます。また、モノクロ(白黒)写真はカラー写真に比べ「妙にドラマチック」に感じるはずですが、それは私たちが「そのモノクロ写真に写っていた現実がカラーだった」ことを知っているからに他なりません。「どんな色だったんだろうか」と想像し始めたその瞬間に時間が動き始めるのです。モノクロをカラーにするストーリーが自分の脳内で勝手に起動するので、ドラマが始まったように感じる、つまりドラマチックに感じる、ということになります。

これらを総合してみると、動画と写真の関係は「小説」と「詩」の関係に近いのかもしれません。情報量の少なさがむしろ想像力を働かせ、時間を無限に広げる楽しさにつながっている。また、写真にはデジタル(透過光)とアナログ(紙=反射光)がありますが、人間の眼は(生理的に)光源を長時間見続けるようには出来ていませんから、「妄想の時間をたっぷりと広げる」ためには写真はプリントされている必要があります。デジタル写真全盛時代でも写真集に一定のニーズがあるのも、そしてフォトギャラリー(写真展)では大判の上質な印画紙に現像されたモノクロ写真が多いのもこれが理由です。そしてそこに写っているものは「懐かしい過去」であると同時に「取り戻すべき未来」でもあります。特に野町和嘉さんの『地平線の彼方から』や長倉洋海さんの『地球に謳う』などは、自分(読者)が次に何をしなければならないかをクリアカットに教えてくれます。自分がこれからやるべきことは過去の(誰かが作ってくれた)写真集の中ですでに再現されている、ということですね。

さて、今年(2025年)4月以降に開催されている写真展(フォトギャラリーにおける企画展)をTOKYO ART BEATで検索してみると、年内に200以上の企画展が予定されていることがわかります。実は日本は写真展大国であり、かつ(グラビアアイドル写真集を除いても)数多くの写真集が発行されている国ですが、全ての企画展に足を運ぶわけには当然行きませんし、高額な(一部の古本を除けば、さほど高くないのですが)写真集を頻繁に購入するわけにも行きません。

というわけで、LocalKnowledgeは5月9日(金曜)を皮切りに、日本を代表する写真評論家・飯沢耕太郎さんにMCをお願いして、話題の写真集を刊行したフォトグラファーをゲストとしてお迎えし、その写真集を飯沢さんや皆さんと一緒に眺める「ウェブフォトギャラリー」を始めます。LocalKnowledgeが過去に展開してきた丁々発止の刺激的なウェビナー(Webinar)やミーティングとは真逆の、芳醇で豊かな、そしてのんびりした時間にしたいと考え、夜の10時にスタートすることにしました。記念すべき第一回のゲストとして『KASUBABA 2011-2020』を発刊した鷹野隆大さんにご登場いただきます。ご期待ください。

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