本の場

「実験」とは何か ― STS(科学技術社会学)を通して科学と社会を見る目を鍛える

Posted by local knowledge on May 15th, 2025

STS(科学技術社会学)という学問があります。「社会科学を通じた科学技術の動態研究と定義できる」(p.ⅳ)、1970年代以降欧米を中心に盛り上がってきた比較的新しい研究分野です。

日本では大学受験を考え始める高校1年生の頃に「文系」か「理系」かを選択することになっていて、「文系」を選んだ人の多くは、その後の人生で科学や技術の研究現場にリアルに触れる機会はほぼなくなります。

小学生の頃に読んだキュリー夫人やエジソンの伝記の衝撃、学校での理科実験が100年以上前の先端科学の実験をなぞるものだったとわかる高校教科書の箸休め的コラム、あとはSF小説やマンガやドラマや映画に描かれる先端科学や未来社会、あるいは宇宙ロケット打ち上げのようなビッグサイエンスの華々しい成果や毎年恒例のノーベル賞を伝える科学のニュース――「文系」人間にとって一生ものの科学との接点と言えば、せいぜいそのくらいでしょうか。

一方で、私たちが生きているこの現代社会は、科学技術の進歩のうえに成立しています。自然災害への対策も難病の克服もエネルギーや食糧の安全保障も、喫緊の大きな社会課題は、どれも科学技術なしには解決できないものばかりです。

その科学技術の進歩は、研究室(ラボラトリー)における日々の地道な研究活動から生まれていて、なんとなく想像してみるに、そこでは悪戦苦闘とか試行錯誤と呼ぶしかないような、失敗がつきものの努力が積み重ねられているのでしょう。

私たちは、その研究活動のリアルな姿(動態)にはあまり関心を寄せないままに、ただただ新発見や新開発をぼんやりと期待しているだけで良いのでしょうか。もちろん、誰もが自分の社会生活を生き抜くだけで精一杯という現実があるにしても、いざ災害や病気に遭遇したときに初めて科学や技術について真剣に考え始めるのは、今のこの時代ではいささかリスクが高いようにも感じます。

2025年4月に東京大学出版会から刊行された『「実験」とは何か』は、STSの知見を駆使して、私たち「文系」人間の貧弱な「実験」観を大きく拡張してくれる一冊です。そこで扱われる「実験」は科学実験に留まらず、交通計画やまちづくり等に関する社会実験、ジョン・ケージやマルセル・デュシャンといった実験芸術と、広大な領域に及びます。

「同じ実験と言っても、科学における実験と社会実験や実験芸術とは、ぜんぜん別物でしょ?」と反射的には考えてしまいがちですが、そもそも科学における実験とは何なのか、それにはどんな歴史的変遷がありどんな諸特性があるのか、とミクロに掘り下げていくと、科学実験と社会実験や芸術における実験との間には、「実験」の名に値する多くの共通する特性があり、同時に諸特性の強弱バランスにはそれぞれ異なる傾向があることがわかります。

私たちは普段、「(正解を求めて)仮説を検証するための科学的操作」という学校教育以来の素朴な「実験」観に留まりがちですが、実は職場や地域社会で何らかの改善を目指して実践している日常的な営みには、多分に「実験」的要素が含まれていそうなのです。そんなふうに自分事に引きつけて思い返してみると、ブラックボックスでしかなかった最先端科学の現場で何が起こっているのかについても、少しリアリティをもって考えを巡らせられるようになるのではないでしょうか。

6月5日の「本の場」では、『「実験」とは何か』の著者・福島真人先生をお迎えして、STSという学問がもたらす知見が、科学や現代社会に対する私たちの見方をどのように広げてくれそうか、「実験」をキーワードに話し合ってみたいと思います。

科学リテラシーについてご関心をお持ちの社会教育・学校教育関係のみなさま、社会のさまざまなフィールドで新しい手法を見つけようと失敗しつつ挑戦を続けているみなさま、これから科学の道へ進もうかどうしようか考えている若いみなさま、ぜひご参加ください。

本イベントが取り上げる本

『「実験」とは何か』

『「実験」とは何か』

著者:福島真人

出版社:東京大学出版会

発売日:2025年4月1日

5,940円(税込)

開催概要

イベント名称「実験」とは何か ― STS(科学技術社会学)を通して科学と社会を見る目を鍛える
開催日時2025年6月5日 (木) 18:00~19:30
※お申込みいただいたみなさま全員に見逃し配信を行います。イベント終了後一両日中にはアーカイブ動画配信を開始し、約1週間のあいだご視聴いただけます。
話題提供者福島真人

東京大学名誉教授
イベント形態Zoomミーティングを利用したオンラインイベントです。
※お申込みいただいた方には参加URLを事前にメールにてお送りします。
参加料無料
参加方法このウェビナー(Webinar)を申し込む
購入期限チケットの申込期限は当日6月5日の17:00までとさせていただきます。
主催本棚演算株式会社
※プログラムの内容・時間などは予告なく変更となる可能性があります。ご了承ください。
福島真人(ふくしま・まさと)
福島真人(ふくしま・まさと)

東京大学名誉教授。東京大学大学院社会科学系博士課程修了、博士(学術)。
東京大学東洋文化研究所助手、国際大学助教授、東京大学大学院総合文化研究科教授、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授等を経て現職。
主要著書に、『身体の構築学』(編著、ひつじ書房、1995年)、『暗黙知の解剖』(金子書房、2001年)、『学習の生態学』(東京大学出版会、2010年/ちくま学芸文庫、2022年)、『真理の工場』(東京大学出版会、2017年)、『予測がつくる社会』(共編著、東京大学出版会、2019年)、『ワードマップ 科学技術社会学(STS)』(共編著、新曜社、2021年)。