ニューズレター

未来予測とABW

Posted by local knowledge on September 2nd, 2022

私たち生活者は好むと好まざるにかかわらず、必ず3つの市場に組み込まれています。金融市場、産業市場、そして労働(雇用)市場、ですね。この3つの市場は必ずこの順序で循環することが知られています。比較的最近のわかりやすい例が1985年のプラザ合意(金融市場に大きなインパクト)から産業が大きく動き出し、すぐに人手が足りなくなり雇用市場が活性化した例でしょうか(ただしこの循環は1991年のバブル崩壊で一旦リセットがかかり「失われた90年代」に突入し、それがいまだに続いている、という状況です)。

この3市場には非常に大きな、そしてヒトが大好きな予測(予想)という行為が横たわっていて、3市場に直接参入しているプレイヤーとは言い難い「行政府」と「メディア」が様々な近未来予測を行います(行政府はいうまでもありませんが、メディアも産業である必要はない、というのが私の持論なのですが、これについてはまた後日)。「予測という市場がある」と言い切ってもいいかもしれません。しかし多くの場合、この未来予測はほぼデタラメです。例えばつい先日、Gartnerが「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2022年」を発表(2022年8月16日)しましたが、まともなジャーナリストでこれを引用する人はいないでしょうね。まことしやかな普及曲線のようなものが表現されていますが、x軸(時間)に科学的根拠がないし、y軸に至っては「期待度」ですから、そんなもの数値化できるわけがありません。

さらに「ビッグデータから未来が予測できる」と言い張る人は流石に最近は減ってきた気がしますが、過去のデータから予測できるのは「過去と似たような未来」に過ぎず、 AIは偶有性を計算できないので、「AIで未来予測」を主張するメディアは信用に値しないと考えていいでしょう。

「先行き不透明な状況が続く」もメディアが好んで使う常套句ですが、先行きが透明になったらそれこそパニックです(まず金融市場が大混乱します)。私たちの人生は先行きが不透明だからこそ希望が持てるわけです。そしてこれもメディアが大好きな「Aはもう古い、これからはBだ」という構文は、構文それ自体が陳腐化しているのでBにどんな斬新な言葉を入れても言説それ自体は極めて古典的なものにならざるを得ません。DX/GX時代になるとメシを食わなくてもいいのなら話は別ですが、私たちの日常生活は太古の昔からの地層の上に多重化されています。例えば第4次産業革命の下の地層にある最初の産業革命から3次までの産業革命は、上書きされ消去されたわけではなく、今も立派に仕事をしていますから、多くの場合AとBを足して2で割っても「若干Bの香りがするA」というなんともスッキリしない結論になるのが関の山でしょう。

直近の話題だと「テレワーク全盛時代」が「B」として盛んに(メディアで)連呼されていますが、実は一般社団法人日本テレワーク協会の前身である日本サテライトオフィス協会が設立されたのが約30年前でして、運動としてはその頃から始まっているにも関わらず、面としての広がりが一向に見えない状況が続いていたわけです。そこにコロナ禍がやってきて、ようやく広がるかも、と思いきや、感染者が減ると同時にオフィスへ向かう人も増え始めたりする。

ただしこれに関しては他の要因(雇用形態の多様化、都心の不動産価格の高値安定、その他)も含め、少し変わる可能性はありますね。象徴的なバズワードがABW(Activity Based Working)でしょうか。ムーブメント自体は80年代の欧州に端を発していますが、オフィスと自宅を含めたハイブリッドワークのあり方を(デジタルテクノロジーが支援することで)少しだけ“進化”させる可能性があります。

図書館もデジタルライブラリーが当たり前になると、利用の仕方がABWに近づく可能性があります。

ローカルナレッジ 発行人:竹田茂

最新コラムはニュースレターでお送りしています。お申し込みは下記から

ニューズレター登録はこちら