newsletter

様々な地層を往復する豊かさを獲得しよう

Posted by local knowledge on March 24th, 2023

最近、若い女性の間でソロキャンプが流行っているそうです(もはや“最近”とは言い難いトレンドなのかもしれません)。私の知り合いにも何人かこのソロキャンプの魅力にハマっている人がいますが、LEDランプでは再現できない焚き火の暖かさと光、原始的な調理方法による食事を屋外で堪能する楽しさ、人間関係の煩わしさからの解放、普段見ることのない朝焼けや夕焼けの美しさなどに魅了されているのでしょう。これは一言で言えば「狩猟時代の豊かさの再現」で、様々な便利ツールで包囲された現代社会から脱出しようとする活動のようにも思えます。いつでも現代社会に戻れることが保証されている狩猟社会が“本当の狩猟社会”よりも圧倒的に楽しいであろうことは容易に想像できるところです。

政府が推進しようとしているSociety 5.0は、内閣府の第5期科学技術基本計画において、我が国が目指すべき未来社会の姿として提唱されたものです。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続くものとして定義されていて、それは「人間中心の社会(Society 5.0 )」なのだそうです。情報社会(Society 4.0)と何が違うのか個人的にはよくわかりませんが、主として利用するエネルギー、そして主たる産業という視点から眺めるともう少し違う区分が見えてきます。それが第5次産業革命(Next Industry 4.0)というもので、Industry 4.0を宣言してから早くも10年が経過し、この言葉が陳腐化してしまったドイツから出現してきたもののようです。この言葉(=第5次産業革命)は色々な人がいろんなことを言ってるので正直なんだかよくわからないのですが、概ね下記のような解釈で間違いないかな、と思います。

A:狩猟社会:木・火(Fire)
B:農村共同体:薪・木炭・風力・水力・バイオマス
C:第1次産業革命:紡績・蒸気機関・石炭
D:第2次産業革命:化学・電機・鉄鋼・印刷(出版)・石油
E:第3次産業革命:コンピュータ・放送・原子力
F:第4次産業革命:データ・通信・アルゴリズム・再生可能エネルギー
G:第5次産業革命:ゲノム編集・量子科学・核融合(?)

面白いのはFでクローズアップされている「再生可能エネルギー」はすでにBの時代で再現されていた技術、ということですね。江戸時代という“(エネルギー的には)循環型社会”が見直されているのも同じ理由だろうと思います。いずれにしてもエネルギーだけを見れば世界が循環せざるを得ない状況にまで追い込まれていることは確かで、ある種の飽和(saturation)状態、あるいはすでに過飽和な状態になってしまった、ということなのでしょう。エネルギーに限らず情報なども過飽和な状態であることは間違いなく、それがテレビ(放送)の視聴率の低迷や、新聞部数の着実な低減に帰着しているわけです。品質がどうのこうの以前にそれらの情報に接する時間がないのです(なお過飽和な状態はゴミの排出量から推定できるはずですから、興味のある方はこの資料などに目を通していただけると良いかもしれません)。

メディアは専ら「人間中心の社会(Society 5.0 )」あるいは「第5次産業革命」という直近のトレンド(=最新の地層)だけを問題にしますが、ここで私たちが注意すべきは、その下にある地層(上記のA〜F)も“現役”として私たちの生活を支えてくれていること、そして私たちはその地層を縦横無尽に往復できるはず、ということですね。冒頭でご紹介したソロキャンプの事例はまさにこれに該当するわけです。ヒトの寿命が飛躍的に伸びているわけではないにもかかわらず、地層の数がどんどん増えているということは、一つ一つの地層を味わう時間は(相対的に)減少していることを意味します。しかし同時に、表層があるから安心して地下探索ができるのも事実です。

表層に食らいついていこうとする、あるいは新しい表層を作ろうとするビジネスマンもある種の必要悪だと思いますが、一方で、その表層が実在するという前提で、過去の地層の探索を繰り返す行為、例えばIoTの専門家が日本の気候風土を前提とした農業に従事する、というような事例が積み上がっていくと、日本らしいトランスフォーム(DX)が実現できるような気がします。言うまでもなく、その時の人材は「ダブルメジャー」が前提、ということになるはずです。

なお、地球が誕生したのは約46億年前と言われていますが、その誕生のしばらく後に、かなり大きな天体が(地球に)衝突し、その衝突時にできた破片(破片というイメージからは程遠い巨大なもののはずですが)が集まってできたのが月(moon)で、その衝突と同時に地軸(自転軸)が約23.4度傾いたことで“四季(four seasons)”が誕生し、月からの引力がこの傾きの角度をしっかり固定してくれているので、毎年この時期には桜が楽しめるわけです。狩猟社会の豊かさや桜の美しさがこの「わけのわからん巨大な天体との衝突」に起因する、と考えると、なんだか有り難みも増すような気がしますよね。

ローカルナレッジ 発行人:竹田茂

最新コラムはニュースレターでお送りしています。お申し込みは下記から

ニューズレター登録はこちら