シュレディンガーの水曜日

循環型社会を実現するプラスチック
-  環境配慮型ポリロタキサン含有高機能ビトリマー樹脂の開発と社会実装

Stronger, Stretchier, Self-healing Plastic

Posted by local knowledge on February 8th, 2024

東京大学大学院新領域創成科学研究科の伊藤耕三教授、安藤翔太特任助教らによる研究グループは、環境配慮型ポリロタキサン含有高機能ビトリマー樹脂の開発に成功しました。従来のビトリマー樹脂に比べて、伸長性が5倍、自己修復性が15倍、形状記憶性が2倍、ケミカルリサイクル性が10倍、それに加え海水生分解性が発現するなど、様々な性能が劇的に向上します。これは「ポリロタキサンのスライド運動による応力分散や結合交換反応を促進する効果によるもの」なのだそうですが、そもそも伊藤先生は内閣府主導のムーンショット型研究開発プロジェクトに採択された「非可食性バイオマスを原料とした海洋分解可能なマルチロック型バイオポリマーの研究開発」のPM(プロジェクト・マネージャ)です。

今回、強靭で資源循環可能なエポキシ系ビトリマー樹脂の開発に成功したことで、熱硬化性樹脂が抱える環境負荷の問題の解決に道が拓ける、もっと平たく言えば、循環型社会を実現できるプラスチックを作ったぜ、ってことですね。これで今回の研究プロジェクトが一気に加速したことは間違いありませんが、一方で、ムーンショット 型研究のPMには、実に様々な他団体との連携共同研究体制を活性化していくミッションがあります。今回の「シュレディンガーの水曜日」は、そのあたりのご苦労、そして「環境配慮型ポリロタキサン含有高機能ビトリマー樹脂」の詳細をお聞きしたいと思います。(竹田)

開催概要

イベント名称循環型社会を実現するプラスチック
-  環境配慮型ポリロタキサン含有高機能ビトリマー樹脂の開発
開催日時2024/2/14 (水) 17:00~18:30
※お申込みいただいたみなさま全員に見逃し配信を行います。イベント終了後一両日中にはアーカイブ動画配信を開始し、約1週間のあいだご視聴いただけます。
話題提供者伊藤耕三(いとう・こうぞう)
東京大学大学院新領域創成科学研究科・教授/公益社団法人高分子学会・会長
イベント形態今回はZoomウェビナー(Webinar)を利用します。
※お申込みいただいた方および「ローカルナレッジ」月額サブスクリプションメンバーの方には、参加URLを事前にメールにてお送りします。
参加料1,500円(税込)
※月額サブスクリプションメンバーは不要
参加方法このウェビナー(Webinar)のみ申し込む
または月額500円(税込)のサブスクリプション サブスクリプションに登録する
※サブスクリプションメンバーは月額500円のお支払いだけで、毎月3〜4回実施される「ローカルナレッジ」が開催する全ての有料セミナーに参加可能です
購入期限チケットの購入期限は当日2月14日の16:00までとさせていただきます。
主催シュレディンガーの水曜日実行委員会(Schrödinger’s Wednesday Council)/ローカルナレッジ編集部
※プログラムの内容・時間などは予告なく変更となる可能性があります。ご了承ください。
伊藤耕三(いとう・こうぞう)

伊藤耕三(いとう・こうぞう)
東京大学大学院新領域創成科学研究科・教授/公益社団法人高分子学会・会長

1981年3月東京大学工学部物理工学科卒業、1986年3月東京大学大学院工学系研究科物理工学専門課程博士課程修了(工学博士)、1986年4月通商産業省工業技術院繊維高分子材料研究所研究員、1990年10月同主任研究官、1991年6月東京大学工学部物理工学科講師、1994年8月同助教授、1999年に、架橋点が自由に動く高分子材(スライドリング・マテリアル:SRM) を発明、 1999年4月東京大学大学院大学院新領域創成科学研究科助教授、2003年2月同教授、2005年5月アドバンスト・ソフトマテリアルズ株式会社を設立、取締役(兼務)、2014年(~2018年)ImPACT プログラム・マネージャー、2020年MOONSHOT プロジェクト・マネージャー研究活動

主たる研究活動

1)トポロジカルゲル
ゼリー状の物質であるゲルは、食品、医療品、工業製品等に幅広く利用されており、用いられる高分子の種類も多様である。しかし構造という視点から眺めてみると、物理ゲルと化学ゲルのわずか2種類しかない。最近我々は、そのどちらにも分類されず、架橋点が自由に動く新しい種類のゲル、すなわち「トポロジカルゲル」の合成に成功し、その力学物性および微視的構造を研究している。トポロジカルゲルでは、架橋点が滑車のように自由に動くため、ミクロな不均一構造・応力分布の不均一性が解消される結果、従来のゲルとは大きく異なる物性を示す。トポロジカルゲルの応用としては、透明かつ強靭という特性を生かして、ソフトコンタクトレンズ、人工関節などの生体材料への展開が期待されており、すでに実用化に向けての研究も進行中である。ゲルの材料としての最大の特徴は、構成成分がほとんど液体でありながら液体を保持しつつ弾性体として振舞う点であり、ソフトコンタクトレンズなどもその特徴を利用している。トポロジカルゲルは、可動な架橋点を導入することで高分子を最大限に効率よく利用することにより、従来のゲル材料では実現不可能であった高い液体分率と機械強度を両立させている。

2)分子被覆導線を用いた分子素子
近年、微細加工技術の驚異的な進展に伴い、半導体デバイスの高密度・高集積化が著しい。しかし、微細化がより進みナノメータースケールになると、加工限界、高価格化などの問題が生じ、根本的な発想の転換が求められている。このような問題を解決するためのアプローチの一つとして、従来の微細化(マクロからミクロへ)の方向とは逆に、原子・分子の組織化・集積化(ミクロからマクロへ)による機能素子(分子素子)を目指した研究が近年急速に盛んになっている。このような分子素子を構築する上で、基本的かつ重要な問題は、電子機能性分子間の信号伝達をいかに行うか、すなわちいかに配線するかという点である。最近我々は、導電性高分子を環状分子が包んだ分子被覆導線の作成に成功し、その電気特性を調べている。導電性高分子を被覆することで、高分子1本の性質を詳細に調べることが可能になった。また、環状分子の中に包接された導電性高分子は、形態が棒状に固定されるため、高い導電性が期待される。現在、この分子被覆導線を用いて、様々な分子素子を作成中である。分子被覆導線は、溶液中における混合という容易な手法で作成可能であり、理想的な1次元量子細線とみなすことができる。分子被覆導線の分子配線あるいは量子細線としての有効性が明らかになれば、分子素子の実現に向けて大きな弾みがつくことが期待される。

東京大学大学院新領域創成科学研究科のホームページより抜粋)

シュレディンガーの水曜日実行委員会

Schrödinger’s Wednesday Council

シュレディンガーの水曜日

(写真左から)

原正彦(はら・まさひこ:メインコメンテータ、MC):ドイツ・アーヘン工科大学 シニア・フェロー
1980年東京工業大学・有機材料工学科卒業、83年修士修了、88年工学博士。81年から82年まで英国・マンチェスター大学・物理学科に留学。85年4月から理化学研究所の高分子化学研究室研究員。分子素子、エキゾチックナノ材料、局所時空間機能、創発機能、揺律機能などの研究チームを主管、さらに理研-HYU連携研究センター長(韓国ソウル)、連携研究部門長を歴任。2003年4月から東京工業大学教授。現在はアーヘン工科大学シニア・フェロー、東京工業大学特別研究員、熊本大学大学院先導機構客員教授、ロンドン芸術大学客員研究員を務める。

中山知信(なかやま・とものぶ:レギュラーコメンテータ):物質・材料研究機構(NIMS)国際・広報部門・部門長
1988年東京工業大学大学院・材料科学専攻修士修了(99年博士(理学)、東京大学)。91年、民間企業から理化学研究所に移籍し、ナノ物性研究に従事。2002年より、物質・材料研究機構(NIMS)。国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(WPI-MANA)PI、同拠点副拠点長および事務部門長などを務め、2007年文部科学大臣表彰科学技術賞研究部門、2019年応用物理学会フェロー表彰などを受賞。筑波大学准教授、教授も併任し、2022年より同大学名誉連携教授。現在は、NIMS国際・広報部門長として研究の活性化に力を入れている。

長谷川 修司(はせがわ・しゅうじ):日本物理学会・会長、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻教授
1960年生。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修士課程修了。理学博士。日立製作所基礎研究所研究員、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻助手、同助教授、同准教授を経て、現在は東京大学大学院理学系研究科物理学専攻教授。専門は固体表面およびナノスケール構造の物性。2018年から2023年まで公益社団法人・物理オリンピック日本委員会理事長

桜田 一洋(さくらだ・かずひろ):慶應義塾大学・医学部 石井・石橋記念講座(拡張知能医学)教授
大阪大学大学院理学研究科修士課程修了(生理学専攻)。1988年協和発酵工業株式会社東京研究所に研究員として入所。2000年同研究所主任研究員。2004年日本シエーリング株式会社リサーチセンターセンター長。2007年バイエル薬品株式会社執行役員、神戸リサーチセンター長。2008年iZumi Bio, Inc.執行役員、最高科学担当責任者。同年株式会社ソニーコンピューターサイエンス研究所シニアリサーチャー。2016年 理化学研究所 医科学イノベーションハブ推進プログラム 副プログラムディレクターとなる。2021年より慶応大学医学部拡張知能医学講座教授として学生の指導にも携わり現在に至る。最新著書『亜種の起源 苦しみは波のように』(幻冬舎、2020)で、「心」をサイエンスで捉える生命論を展開する注目の研究者。

八十雅世(やそ・まさよ):情報技術開発株式会社・コーポレート本部経営企画室マネージャー
早稲田大学第一文学部美術史学専修卒、早稲田大学大学院経営管理研究科(Waseda Business School)にてMBA取得。技術調査部門や新規事業チーム、マーケティング・プロモーション企画職などを経て、現職。