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丁寧な説明と丁寧な解説

Photo : 妻籠宿 古い町並み / lobster / Adobe Stock

Posted by local knowledge on March 15th, 2024

政治がうまく回らないのはもっと別の根本的な理由があるのですが、それはともかく、岸田首相には、1)「新しい資本主義」のような「素晴らしい総論と空白の各論」、2)言葉の間に小さく「ま」を挟む、3)「火の玉」のような抽象度が高く誤解を招きやすい言葉、等を多用するという悪癖があって、優秀なスピーチライターに恵まれてないのが明白なんですが、この政権の最大の特徴とも言える最悪のストックフレーズは「丁寧な説明」でしょう。

「丁寧な説明」は言うまでもなく、(その説明を聞く)相手に正しく理解していただくために行われるわけですが、「丁寧な説明」が必要な事象は万人にとって好ましからざる、様々な事情が複雑に絡んだものであることが多く、そもそもわかりにくい。「(ゴミの)ポイ捨てはやめましょう」に丁寧な説明は不要ですが、「ここに廃棄物処理場を作りましょう」と言われたら「おいこらちょっと待て」となるはずです。どうしても「丁寧な説明」が必要になります。つまり「丁寧な説明」が必要な事象は本来「やってはいけない、大多数の信任を得るのが難しいこと」である確率が高い。加えて「丁寧な説明」はそれに関する議論を拒否することの宣言に他なりません。あくまで説得のための行為なので、相手が納得しようとしまいと、その「丁寧な説明」が必要な行為はすでに実行することを決めている、という意味においても、態度としてあまりにも不遜である、と言えます。

しかし一方で、丁寧な説明(解説)自体が貴重なコンテンツになる場合も多いと思います。例えばスポーツ中継をテレビなどで観戦する場合は、解説者の力量次第でその番組の面白さはいかようにも変化します。大相撲中継における舞の海秀平など、相撲そのものよりはむしろ解説の方が面白いし、増田明美の「ほとんど競技と無関係なプライベートネタだらけ」の女子マラソン解説は良し悪しはともかく面白いのは確か(逆にアスリートとしての実績は素晴らしいのに解説が全く面白くない瀬古利彦という人もいますね)。

不思議なのは国会中継に解説者がいない、ということです。あれも一種のライブパフォーマンスなので、その様子を解説してくれる人が必要です。それに相応しいのは誰かと言えば、これはもう間違いなく、言語学・国語学・論理学・倫理学の専門家でしょう(逆に、経済学や公共政策の専門家は不要だと思います)。要するに「徹底的に言葉遣いをチェックしていただきたい」のですね。解説者がいる国会中継は間違いなくマラソン中継より面白いはずです。「出た!伝家の宝刀「差し控えさせていただきたい」。これでマイナス1点ですね」という具合に何人かの解説者がバトルトークしていくと、国会議員を査定できるし、“論戦”自体がもう少しまともなものになるはずです。

さて、明日(3月15日)のローカルナレッジには名古屋外国語大学(学長はドストエフスキー研究の第一人者、亀山郁夫氏です)のホープ、根無一信さんが登場します。ソクラテスと比較宗教学に関する彼の“解説”を楽しみましょう。

ローカルナレッジ 発行人:竹田茂

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