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社会は科学と上手くつきあっているか ― 震災をめぐる「予測」と「想定」

Posted by local knowledge on April 8th, 2024

元旦に発生した令和6年能登半島地震について、科学史科学哲学の泰斗・村上陽一郎さんは次のような感想を述べられています。

東日本大震災と比べて、その発生形態などにかなり差があるように思われる…
過去の震災の教訓が活かされている点と、活かされていない点をどのように評価すべきだろう…
事前の防災対策において、行政をはじめとする社会に欠けているところはなかったのだろうか…
二次災害の危険に対するアセスメントが慎重すぎるようにも感じられたが…

自然地理学がご専門で活断層学会会長の鈴木康弘さんは、最新の活断層学では何がどこまでわかっているか、その知見に照らして望ましい防災・減災対策の方向性がどのようなものか、メディアの求めに応えて多くの発信を重ねてこられています。たとえば雑誌『世界』3月号への寄稿は、こんなふうに始まります。

二〇二四(令和六)年元日に起きた能登半島地震は、過去百年に日本で起きた活断層地震のうち最大規模のマグニチュード(M)7.6であった。半島北部の沿岸海域には複数の活断層があり、それが連動した希な地震だとの見解もあるようだが、そうではなく、むしろそこに存在した九〇㎞を超える長い活断層が活動したために起きた典型的な地震であり、当然「想定」されていなければならなかった。

科学は、日々調査研究を重ね、一歩ずつ着実に真実を拡張していっています。大地震についても、現在の科学で、どこでどのような地震がどのくらいの確率で発生し得るか、その場合どのような災害が発生する可能性があるか、「予測」することができます。そしてその「予測」の根拠がどんな調査や理論に基づくものか、常に明確に説明することが可能です。

私たちは、「次はどこで大地震が起こりますか?」と科学者に質問していつどこでの答えが一言で明言されないと、「けっきょく今までと同じで何もわからないんだ」と簡単に諦めて、今まで通りの備えを漫然と続けてしまいがちです。けれど実は、5年前10年前よりも科学にわかっていることは確実に広がり深まっていて、ただし、その科学の進歩は、マスコミが喧伝するノーベル賞級の世紀の発見といった類いのものではなく、もっとずっと地味な、たとえば、調査や実験のやり方の改良であったり、理論の少しの洗練であったり、ふつうの人にはわかりにくい「細部」であることがほとんどなのです。

私たちの社会は、そのような「細部」に慎重に耳を傾けて未だ見ぬ次の災害をきちんと「想定」できるだけの賢さを、近年のいくつもの経験を通して一体どれだけ身につけてこれたのでしょうか。

開催概要

イベント名称社会は科学と上手くつきあっているか ― 震災をめぐる「予測」と「想定」
※本イベントは「Local Knowledge MeetUp Spring 2024 いま考える『地域主権』と『新しい復興』」のSession 1として開催いたします。
開催日時2024/4/26(金)13:00~14:00
※本イベントは見逃し配信を行いません。
話題提供者村上陽一郎さん(科学史・科学哲学、東京大学/国際基督教大学名誉教授)
鈴木康弘さん(自然地理学、名古屋大学減災連携研究センター教授・活断層学会会長)
イベント形態Zoom Webinarsを利用したオンライン開催です。
※お申込みいただいた方に参加用URLをメールにてお送りします。
参加料無料
参加方法参加登録はこちら
主催ローカルナレッジ編集委員会(スタイル株式会社本棚演算株式会社
協力一般社団法人・京都大学学術出版会
後援京都大学 東南アジア地域研究研究所
※プログラムの内容・時間などは予告なく変更となる可能性があります。ご了承ください。
村上陽一郎・鈴木康弘

村上陽一郎(むらかみ よういちろう)写真左
1936年東京生まれ。科学史家、科学哲学者。東京大学教養学部卒業、同大学大学院人文科学研究科博士課程修了。東京大学教養学部教授、同先端科学技術研究センター長、国際基督教大学教養学部教授、東洋英和女学院大学学長などを歴任。東京大学名誉教授、国際基督教大学名誉教授。『ペスト大流行』『コロナ後の世界を生きる』(ともに岩波新書)、『科学の現代を問う』(講談社現代新書)、『あらためて教養とは』(新潮文庫)、『人間にとって科学とは何か』(新潮選書)、『死ねない時代の哲学』(文春新書)など著書多数。

鈴木康弘(すずき やすひろ)写真右
愛知県岡崎市生まれ。 東京大学理学部地学科地理学課程卒業、同大学院理学系研究科博士課程修了。愛知県立大学文学部/情報科学部助教授を経て、名古屋大学環境学研究科/減災連携研究センター教授。専門は変動地形学、活断層論、災害地理学。日本活断層学会会長。