津田直 『LO』

写真集の夜
飯沢耕太郎オンライン・フォトブック・ギャラリー
第9回 津田直 『LO』

LO - Cupola #1 / © Nao Tsuda, Courtesy of Taka Ishii Gallery Photography / Film

Posted by local knowledge on December 19th, 2025

現地で4000メートルの高地を移動しながら、遠くには8000メートル峰の山々が見えている道で、いつも身体が浮遊しているような(まるで地上を歩いていないような)感覚だったことが蘇ってきた。数多くの砂の洞窟に登り、そこから風景を望んでいたからかもしれないが、果たしてそれだけのことで、重力から解放された感覚に陥るものだろうか。しばらくして、あれは宇宙船やヨーロッパの教会の塔の最上部にあるキューポラの窓からの眺めだったのではないか、という幻影までが浮かんでは消えていった。

(『LO』「逆さまの杯」より)

2025年12月のTOKYO ART BOOK FAIRで、写真家津田直さんの新作作品集『LO』がお披露目されました。そこでは、かつてチベット系の王国だったネパールの奥地ムスタンで昨年撮影された風景の数々が、上部両端の角をなくした平べったい半円形(つまりキューポラのかたち)に整えられ、幻想的なリソグラフ印刷で刷られています。

「写真集の夜」第9回は、刊行されたばかりの『LO』を中心に作品ひとつひとつを取り上げながら、津田さんのここまでの歩みやこれからについて、写真評論家・飯沢耕太郎さんとお二人で語り合っていただきます。

(飯沢さんコメント)
津田直さんの写真集『SMOKELINE』(2008年)は衝撃的な作品でした。「風の河」をテーマに、中国、モンゴル、モロッコなどで撮影したスケールの大きな風景写真に、向こう側に連れて行かれるような力を感じました。以後、津田さんはアイルランド、フィンランド、リトアニアなど、”辺境”の地に足を運び、そこで見出した眺めを写真集におさめていきました。今度のネパール奥地、ムスタンで撮影した写真を集成した『LO』もその延長線上にある仕事といえます。ただ、今回はリソグラフで印刷、半円形の画面に収めるという構成も含めて、これまでのように旅の経験をそのまま定着したものというよりは、アート作品として、現実世界とは別次元の”幻の風景”を立ち上げているように見えます。その辺りを、津田さんとぜひお話ししてみたいと思っています。

開催概要

名称写真集の夜
飯沢耕太郎オンライン・フォトブック・ギャラリー
第9回 津田直『LO』
開催日時2026年1月9日 (金) 22:00~23:00
※見逃し配信は行いません。後日、アーカイブ動画を有料で販売する予定です。
ゲスト津田直 (写真家)
案内人飯沢耕太郎 (写真評論家)
イベント形態Zoomウェビナー(Webinar)を利用したオンラインギャラリーです。
※お申込みいただいた方には参加URLを事前にメールにてお送りします。
参加料無料
参加方法このウェビナー(Webinar)を申し込む
購入期限チケットの申込期限は当日1月9日の21:00までとさせていただきます。
主催スタイル株式会社
※プログラムの内容・時間などは予告なく変更となる可能性があります。ご了承ください。

今夜の写真集

津田直『LO』

『LO』

著者:津田直

発行:NEUTRAL COLORS

発売日:2025年12月

(通常版)

津田直『LO』(通常版)

(特装版)

津田直『LO』(特装版)
飯沢耕太郎(いいざわ・こうたろう)
飯沢耕太郎(いいざわ・こうたろう)

写真評論家。詩人。1954年、宮城県生まれ。1977年、日本大学芸術学部写真学科卒業。1984年、筑波大学大学院芸術学研究科博士課程修了。主な著書に『写真美術館へようこそ』(講談社現代新書1996)、『私写真論』(筑摩書房2000)、『デジグラフィ』(中央公論新社 2004)、『きのこ文学大全』(平凡社新書2008)、『写真的思考』(河出ブックス 2009)、『キーワードで読む現代日本写真』(フィルムアート社、2017)、『African Sketchbook』(Purple、2025)、『猫島からの帰還』(ふげん社、2025)などがある。
(撮影:うつゆみこ)

津田直(つだ・なお)
津田直(つだ・なお)

1976年神戸生まれ。世界を旅し、ファインダーを通して古代より綿々と続く、人と自然との関わりを翻訳し続けている写真家。文化の古層が我々に示唆する世界を見出すため、見えない時間に目を向ける。2001年より国内外で多数の展覧会を中心に活動。最近では、現代美術のフィールドを越えて他分野との共同制作や雑誌連載、講演会、特別授業も行う。 主な作品集に、奥琵琶湖を舞台とした『漕』(主水書房)、風の河を主題とした『SMOKE LINE』、アイルランドの島々に残る古代遺跡を巡った『Storm Last Night』(共に赤々舎)、自然信仰が今も息づくリトアニアにて撮影した『Elnias Forest』(handpicked)がある。2022年には音楽家の原 摩利彦との共作を太田市美術館・図書館にて発表。展覧会に伴い、図録『トライノアシオト』(左右社)を刊行。最新刊はネパールの奥地ムスタンにて撮影した写真集『LO』(特装版、通常版の二種、2025年)をNEUTRAL COLORSより刊行。JAL機内誌『skyward』、『芸術新潮』、『TRANSIT』、『PAPERSKY』等の雑誌に寄稿も行っている。2010年、芸術選奨新人賞美術部門受賞。大阪芸術大学客員教授。
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