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文化的処方としての映画制作

Photo :富士山と紫陽花と雲 / かめさん / Adobe Stock

Posted by local knowledge on May 23rd, 2024

どんなプロフェッショナルによる「優れた写真」も、ちょいとピンボケの「家族写真」にはかないません。「優れた写真」が最終的には産業志向のメディアになるのに対し、「家族写真」は極めて狭い範囲の文化を共有するコミュニケーションが目的だからでしょう。どちらが良い・悪い、ということではなく、私たちはそのいずれをも楽しんでいるわけです(そもそも同じ「写真」という言葉を使うことに無理がある可能性すらありますが)。

そして(今更ですが)静止画に限らず、動画もまた「気軽なコミュニケーション」文化を実現するための道具になりました。つまり前述の写真のアナロジーで言えば「大きな集客力のあるYotuberが作る動画や、誰もが話題にする映画」を楽しむのも悪くはないけれど、案外、それを凌駕する「文化としての動画を作れる時代」になったのかもよ、という言い方も可能です。そしてそれを実践しているのが、今週金曜日(24日)の島薗塾に登場する孫大輔さん(鳥取大学医学部地域医療学講座、医師)です。

孫大輔さんのご提案は、「みんなで動画を撮ろう」というよりも、その動画(映画)の企画から地元住民に参画していただき、かつ役者としても出演してもらう、という本格的なものです。映画のテーマとして「自宅で最期を迎えること(在宅看取り)」を掲げつつも、それよりもむしろ役者として「演じる」ことで見えてくるものがある、とおっしゃいます。すでに2本の映画制作の実績があります。

病(やまい)の克服とは、身体的・心理的・社会的に良い状態を実現することにあるというのが家庭医療学のBPSモデル(Bio-Psycho-Social model)の基本的な考え方ですが、特に心理的・社会的アプローチにおいては、地域における人と人の繋がりが良い作用を及ぼす可能性があります。であればその「繋がり」を映画制作や上映会などの活動を通じて再構築していくことそれ自体が「ケアのためのコミュニケーション」になる、というのが孫大輔さんが言うところの「文化的処方」です。

法律の世界で今「修復的司法」が注目されているように、医療の世界でも「文化的処方」が流行るようになったらちょっと面白そうですよね。「そんなに簡単に真似ができるのだろうか」ということも含め、今週金曜日は島薗先生と孫大輔さんのやり取りに耳を傾けてみることにしましょう。

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