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二重生活(Double the Life )による強固な生活基盤

Photo : 高知県仁淀川にかかる沈下橋(片岡沈下橋) / Ryolemon / stock.adobe.com

Posted by local knowledge on January 12th, 2024

災害時に、あらかじめ備えておいた特別な非常食を利用するのではなく、普段から食べているものを非常食とみなす考え方をローリングストック(これは和製英語。英語のrunning stockという言葉がこれに近いと思います)というのはみなさんよくご存知かと思います。「ローリングストック」で検索するとおそらく色々なノウハウが見つかるはずですが、個人的には「普段から好んで食べている、比較的保存期間が長いもの」こそローリングストックに相応しいと考えていて、私の場合「サッポロ一番塩ラーメン」がこれに該当します(最悪の場合、水がなくても食べられないことはない)。ですから私の自宅には他人に見せたら笑われるくらい大量の「サッポロ一番塩ラーメン」がストックしてあります。

しかし不思議なのはこの「ローリングストック」という考え方が食品にしか適用されていないことですね。普通に考えれば、私たちの日常生活に必要なもの、つまり衣食住や仕事に関連したものは全てがローリングストックの対象であるべきでしょう。代表的なのが「自宅」です。普段から二か所に生活拠点を持っておけば、どちらかがダメージを受けたとしても、もう一か所で“普通の生活”を営むことができる可能性が高い。仮に家を新築するにしても3,000万円で耐震設計のしっかりした構造物を一つ作るよりは、1,500万円程度の自宅を二か所に作ったほうが生活基盤としては堅牢なはずです。メインテナンスコストが単純に二倍になるわけでもありませんから、自宅1からクルマで30分程度(近すぎると同じ災害でどちらもダメージを喰らう可能性がある一方、100km以上離れると両方を日常使いするのは非現実的)のところに自宅2がある、というのが理想的です。もちろん自宅1と自宅2のいずれもが賃貸でも全く問題ありません、というよりも日本のように地盤が不安定な国においては、むしろ賃貸の方が“基盤としては堅牢”なはずで、持ち家政策というのはある意味ナンセンスでさえあります(注1)。

いずれにしても、一つのストックに二つ以上の意味を持たせる、もしくは同じ意味と品質のものを二つ以上揃える、という二重生活(Double the Life )は耐久性や寿命を2倍近くにする効果があると考えられます。そしてもう一つ重要なのは、一見、二項対立しているかのように見える二つの価値のいずれをも採用することで、より堅牢な生活あるいはビジネスが作れる可能性がある、ということかもしれません。

来週のローカルナレッジは二日連続のダブルヘッダーになってしまうのですが、17日の水曜日は、アートとサイエンスの両方のいいとこ取りを目論む東京工業大学・教授の野原 佳代子さんのお話し(みなさんには紙と鉛筆をご用意いただくオンラインのワークショップ形式にチャレンジします)、そして18日の木曜日は移住者が急増中の「ないものはない=(1)無くてもよい (2)大事なことはすべてここにある」の二重の意味がこめられた島根県隠岐島・海士町(あまちょう)で現在2期目に入った「島まるごと図書館構想」を実践する海士町中央図書館館長の磯谷奈緒子さんのお話しをお聞きしようと考えています(こちらは翌週の25日に後編もあります)。どちらも面白いと思いますが、いずれにも共通するのが「2」という数字が持つ堅牢性ですね(人類が一番最初に発見した数字はおそらく「2」だろうという、比較的信頼性の高い俗説があります=(1)食べられるものと(2)食べられないものを分け、視覚的に2つの塊を認識したはず、ということが根拠になっています)。

注1)知的財産権なども含めた「所有権」に興味のある方には、少し古い本ですが『所有権の誕生』(加藤 雅信、三省堂、2001年)のご購読をお勧めします。所有権という概念が妄想の塊であること、ただしそれが私たちの生活を近代化してきたという歴史的事実があることがわかります。

ローカルナレッジ 発行人:竹田茂

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